『MOMENT RING』に寄せて-永遠に輝き続ける青春の円環-
ラブライブ!の集大成となるμ'sファイナルシングルが3月2日に遂に発売された。
2010年8月13日にコミケで限定発売された「僕らのLIVE 君とのLIFE」から約5年と6ヶ月越しとなるμ'sの最後を飾るシングル。
「MOMENT RING」と名付けられたそのシングルは、ラブライブ!が紡いできた「刹那の輝きの尊さ」そのものを歌っているように感じられた。
限られた時間のなかであればこそ輝く青春の瞬き。そんな一瞬を形あるものとして永遠に留めておきたい。
それが不可能な願いであることは明白であり、儚い一節であると言えばそれまでなのだが、同時に彼女たちが選択した"いま"の捉え方が美しく表現されており、それが明るい曲調とも相まって愛おくも思える歌詞ではないだろうか。
曲調が明るいからこそ"泣ける"曲は、「SUNNY DAY SONG」や「僕たちはひとつの光」など挙げればいとまがないが、この曲も同じ系譜を引き継いでいると言える。
本稿では、ラブライブ!のキャストや制作陣のインタビュー記事を通じて、「MOMENT RING」の持つ意味について掘り下げていきたい。
ただの言葉遊びに思える部分もあるかもしれないが、最後のライブを控えた今だからこそ、最後にμ'sが残してくれた音楽を通じて、ラブライブ!に思いを馳せる価値があると思うのだ。
「MOMENT RING」を"音楽"から捉える
やっぱり音楽って凄いんですよ。一曲一曲聴くだけで、そこの場面に戻れるわけじゃないですか。
『ラブライブ!』ではこんなにたくさんの曲を作ってきたし、一曲一曲が戻れる手がかりとして残ってるから、いつでもまた会えるよっていう気持ちもあって。
作詞家・畑亜貴インタビュー 「Cut 2015年 08 月号」
ラブライブ!の曲は、TVアニメの劇中で紡いできたストーリーが色濃く反映されている。そのことについてはあらためて言うまでもないだろう。
我々がラブライブ!の音楽に触れた時、物語のあらゆる場面の記憶が曲と共に呼び起こされる。ラブライブ!にとって音楽は欠かせない1つの構成要素であるのだ。
はじめに、そんなラブライブ!を支える重要なファクターである"音楽"から「MOMENT RING」を捉えてみたいと思う。
「MOMENT RING」を"音楽"から捉えた時、「瞬間をリングへと閉じ込めて~」という一節が持つ意味が大きく変わって見えてくる。
前置きで自分は、「不可能な願いである」と書いた。しかし、ラブライブ!が提示してきた音楽の効果を考えるならば、それは不可能な願いでは無くなるのだ。
ラブライブ!が提示してきた音楽の効果、それは「思い出の喚起」である。畑さんの言葉を借りるならば「ある場面に戻れる手がかり」と言い換えてもいい。
一度限りの"いま"を目に見える形で残すことは確かに叶わない。しかし、"音楽"という目に見えない形ならば、不可逆である青春の記憶さえも永遠に形として残すことが可能になるのだ。
瞬間のリングを"音楽"から捉えた時、かけがえのない思い出を形に残したいという彼女たちの願いは奇しくも別の形で叶えられていたことは、特筆すべきことではないだろうか。
「MOMENT RING」を人と人をつなぐ"輪"から捉える
私は「輪」、リングにします。私と穂乃果、仲間のみんな、関わってくれる方、ファンの皆さんをつなげていく輪が『ラブライブ!』だと思っているんです。
自分の人生のかけがえのない一部だと思っているので、"輪"です。
高坂穂乃果役・新田恵海インタビュー 「リスアニ!Vol.10.1」
3年半前の新田さんへのインタビューで、ラブライブ!を表す言葉は?というインタビューに対して、奇しくも"輪"という単語を用いて回答していた。
新田さんと穂乃果、μ'sの仲間たち、スタッフさんたち、そしてファンである我々を繋いでくれた"輪"。
リングを人と人とを繋いでくれた"輪"として捉えた時、スクールアイドルプロジェクトの「みんなで叶える物語」というスローガンが思い起こされる。
「無謀な夢から始まって~」の一節は、もちろん劇中でのμ'sの物語を歌ったものであることは疑いようもないが、同時にスクールアイドルプロジェクトの本質についても歌っているものとして受け取れるのではないか。
ラブライブ!は「伝説開幕」という仰々しい宣誓から始まった。今の現状を見れば有言実行であるが、当時は無謀な宣誓であると思えた人も多いのであろう。
制作陣が成功を思い描いてプロジェクトを進めてきたことは確かであろうが、彼らの期待を大きく超える形でラブライブ!は伝説を成し遂げたと言える。
スクールアイドルプロジェクトが成し遂げてきた数々の成功は、「みんなで叶える物語」の上に成り立った1つの奇跡であり、人と人がつながって作り上げた大きな"輪"である。
「みんなで叶える物語」を掲げて、それを体現してきたスクールアイドルプロジェクトは、最後にはコンテンツの核心に触れるような意味合いを歌詞に持たせたのである。
「MOMENT RING」をスクールアイドルの"継承"として捉える
SUNN DAY SONGはみんなで歌う歌、語り継がれていくであろう歌みたいなポジションで出てくるんですよね。
『ラブライブ!』っていう大会と、その優勝者であるμ'sが、輝きとしてそこに残っていく歌なんだなあと思うと、すごく『うわぁ~~~~』って思っちゃって(笑)
南ことり役・内田彩インタビュー 「Cut 2015年 08 月号」
ラブライブ!では劇中で"継承"を1つのテーマとして扱ってきた。
2期11話では、高坂雪穂と絢瀬亜里沙へとスクールアイドルの想いが受け継がれた。また、2期13話では、1年の代へとアイドル研究部が引き継がれる描写が見られた。
そして劇場版では、「SUNNY DAY SONG」によって未来のスクールアイドルたちへとμ'sの想いが継承されることになった。
「MOMENT RING」のリングを次の世代へと繋ぐ"継承"のバトンとして捉えてみると、「あたらしい夢」がμ'sから想いを受け継いだスクールアイドルたちの新しい夢であるとも捉えられる。
畑さんが以前、ラブライブ!を「永遠に輝き続ける青春の物語」と表現したことがある。
私は、その言葉の本質を「μ’sに希望を与えられたスクールアイドルがまた別のスクールアイドルに希望を与える連鎖こそがスクールアイドルプロジェクトの価値」であると解釈した。
彼女達が限りある青春に価値を求め、永遠を一度諦めたからこそ、多くのスクールアイドルたちに希望が受け継がれ、真の永遠の円環が誕生したのである。
「MOMENT RING」を"継承"のバトンとして捉えてみると、この曲がスクールアイドルプロジェクトの未来についても歌っているようにも私は感じられた。
μ'sが最後に残した音楽を3つの視点から掘り下げてみた。
曲の意味を素直に解釈すると、μ'sがこれまでに描いてきた青春の軌跡を歌っているように受け取れる。
しかし、視野を広げて「MOMENT RING」を捉えた時、スクールアイドルプロジェクト全体に対してμ'sが歌った曲であるように思えてならないのだ。
ラブライブ!決勝大会で応援してくれたみんなへの想いを歌った「KiRa-KiRa Sensation!」
ラブライブ!の未来のためにすべてのスクールアイドルへの想いを歌った「SUNNY DAY SONG」
自分たち9人だけのためにかけがえのないμ'sへの想いを歌った「僕たちはひとつの光」
そしてファイナルシングルとなる「MOMENT RING」は、そんな曲たちから繋がる、みんなで叶える物語-スクールアイドルプロジェクト-を綴った曲なのかもしれない。