きりんログ

-愛と青春と声豚の記録-

朗読で描く海外名作シリーズ『シラノ』に寄せて~8/8公演 岸尾だいすけ/小松昌平/伊波杏樹~

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音楽朗読劇『シラノ』の8/8公演(岸尾だいすけ/小松昌平/伊波杏樹 出演)を観劇しましたので、感想を書き留めておきたいと思います。

 

伊波さんがご出演されるということで観劇する運びとなった「朗読で描く海外名作シリーズ『シラノ』」

朗読劇はこれまで一度しか見たことがありませんでしたが、正直に申し上げますと「舞台や映画には見劣りする」という印象を感じておりました。

舞台や映画は役者の動きや小道具、舞台装置など、作品を盛り上げるための方法が沢山用意されています。舞台・映画で描き出したい世界を鮮明に描きやすい訳です。

しかし、この朗読劇『シラノ』を見て、その考え方はガラリと変わりました。

『シラノ』では、舞台上には役者を照らす光しか無く、舞台の世界を彩るのは「声」と「音楽」だけ。

それなのに、気がつけば作品の世界にどっぷり惹き込まれていました。別の朗読劇を見た時に感じた時間の長さは嘘のように過ぎ去り、あっという間に公演時間が終わりを迎えていました。

声(朗読)だけの劇。いや、声だけだからこそ想像力が掻き立てられ、見た目で感じられる以上の「人物の輪郭」がそこに生まれたのかもしれません。想像の先に、受け手である自分だけが描き出せるシラノ、ロクサーヌ、クリスチャンの姿が確かにありました。

場面が進むごとに登場人物たちの輪郭が段々と見えてくるさまは、雲間を抜けて明るい星空が徐々に見えてくるような高揚感にも似ていました。

声から感じられる人物の感情や行間を想像する楽しさすらありました。

あらためて思うと、それらを味わうことができたのは、類まれなる声での演技経験のある素敵な俳優の方がいてくださったからだと思うのですが、いずれにせよ朗読劇は観客に想像の余地を幾分任せている以上、「無限の可能性」がある表現方法だなと、この『シラノ』を見て感じた次第であります。

 

少々余談を挟みますが、本作を見る前に前知識としてフランスで制作された『シラノ・ド・ベルジュラック』の映画を見ました。

映画を見たと言っても途中で視聴を中断してしまいました。

フランス映画と一括りするのは幾分乱暴かもしれませんし、好きな映画は幾つかあるのは事実ですが、それでも自分にはこの映画は退屈だと感じました。教養が無いとすべてを理解するのは難しいと感じました。

 

それで今回の朗読劇の話に戻る訳ですが、この朗読劇のおかげで『シラノ・ド・ベルジュラック』が素敵な作品だということを知ることができました。それが、自分の中で今回の朗読劇を見たことの大きな収穫だと思っています。

映画を見ている時は些か冗長だと感じられた場面は短くなっており、朗読劇の限られた時間の中で劇的な場面が選ばれて描かれていたことも最後まで飽きずに見られた理由なのかもしれません。

シラノ・ド・ベルジュラック』は古臭さを感じる作品ではなく、現代にも通用する「普遍的な愛」が描かれた作品でした。

私は恋愛作品で滅多に泣くことはありませんが、正直この作品は目頭が熱くなったことを覚えています。

最初は見た目でクリスチャンに恋をしたロクサーヌですが、彼と言葉を交わす内に彼の魂を好きになり、その魂の正体であったシラノの恋が報われる、という胸が熱くなる展開には、込み上げてくるものがありました。

この作品が世界中で何度も様々な演目で描かれている理由、世界中で愛されている理由が分かったような気がしました。

現代の恋愛ドラマや映画顔負けのドラマチックな展開は、時代を問わず愛されている作品なのだなと理由が分かったような気がします。現代風にリメイクしても楽しめる作品なのかなとも思いました。

各論に移ると、言わば恋敵であるクリスチャンに協力するシラノの姿は素敵に見えました。シラノはロクサーヌが好きだからこそ、ようやく気持ちを伝えるチャンスが巡ってきたと思いクリスチャンの姿を借りようという意思は凄いなと思いました。

所々いけ好かないところもあったクリスチャンですが最後に死地に赴く場面などを見て、彼も不器用だけど純粋でいい奴だったなと思いました。ロクサーヌ含め、この作品のメインの三人は本当に全員が素敵な「魂」を持ってるなと思いました。

そしてやはり、最後の場面ではシラノの最期に彼の真実の想いがロクサーヌに届き、彼の恋が報われる場面は感動があり、かつ劇的だったため愛という名の「人が生きる情熱」のチカラを感じた次第であります。

 

以上が、 朗読で描く海外名作シリーズ『シラノ』に寄せた感想となります。

心残りを言うなら他の公演を見て俳優さんによってどのように登場人物が変化するかを見届けたかったことがありますが、いずれにせよ 朗読で描く海外名作シリーズ『シラノ』は、本当に素晴らしい作品でした。

あらためて本作と、本作の元になった『シラノ・ド・ベルジュラック』の素晴らしさを讃えつつ、初めての朗読劇ながら凛としたロクサーヌを演じ、この作品との出逢いのきっかけをくれた伊波さん、男ながらその熱い魂に惚れさせてくれる程の熱量のあるお芝居を見せてくださった岸尾さん、見た目も声も本当に格好良いながら不器用さが見て取れるお芝居を見せてくださった小松さん、本当に素敵な時間をありがとうございました。