きりんログ

-愛と青春と声豚の記録-

みんなで叶える物語の軌跡―ラブライブ!μ's Final LoveLive!〜μ’sic Forever♪♪♪♪♪♪♪♪♪〜に寄せて

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来たる3月31日、4月1日、μ'sにとって最後のライブとなる「ラブライブ!μ's Final LoveLive!〜μ’sic Forever♪♪♪♪♪♪♪♪♪〜」を迎える。

 

数々の夢を見せてきてくれたラブライブ!が1つの区切りを迎えるいま、この世に二つとない最高の作品に出逢えたことに感謝しつつ、「みんなで叶える物語」が辿ってきた軌跡の全てを書き残しておきたいと思った。

 

記事はなるべく簡潔になるように努めたが、書きたいことは膨大になり、最終的にまとまりは無くなってしまったかもしれない。

 

だが、ラブライブ!という素晴らしい作品が僅かな言葉で語れるはずがないこと、最後のライブを迎えるいま穏やかな気持ちではいられず勢いのままに書きあげたこと、その2点をご了承頂いた上でお読みいただければ幸いである。

 

これを読む人にとってラブライブ!という作品が素晴らしかったことを思い返すきっかけになればと思い書いたので、その思いが届けば嬉しい限りだ。

 

記事全体の構成は次の通り。

 

初めにファイナルライブのタイトルに込めれられた想いを想像した上で、次にプロジェクトのターニングポイントになった3rdライブでのキャラクターとキャストのシンクロについて触れる。

 

そしてアニメと現実世界が相互補完している旨を書いた上で、一度アニメの立場からスクールアイドルが生み出した功績を振り返る。

 

それから「みんなで叶える物語」が持つ意味の拡がりを振り返った上で、今度はキャストがこれまでに辿ってきた軌跡やキャラクターを演じる想いについて触れる。

 

最後にラブライブ!の楽曲の素晴らしさについて再確認した上で、締めに私自身のラブライブ!への感謝の言葉を述べる。

 

 

μ’sic Forever♪♪♪♪♪♪♪♪♪―永遠に心に残り続けるμ'sの音楽

 

まずは、ファイナルライブのタイトルに込めれらた想いから想像してみたい。

 

「μ’sic Forever♪♪♪♪♪♪♪♪♪」という言葉を聞いて、真っ先に思い浮かんだものがある。それは「ミはμ'sicのミ」だ。

 

「ミはμ'sicのミ」は、電撃G's magazineの誌上企画で歌詞を募って作り上げた「みんなで作るμ'sの歌」。その歌には「μ'sic forever!忘れないで 君と僕の足跡」というフレーズがある。その一節が「μ’sic Forever♪♪♪♪♪♪♪♪♪」に重なるのだが、μ'sの最後のライブを飾るタイトルが「みんなで作るμ'sの歌」の歌詞を引用していることは、正に「みんなで叶える物語」の最後を飾るのに相応しい。

 

今回は明確にテーマ曲が存在していないが、1年をかけて駆け抜けてきたファンミの汗と涙が詰まっている「ミはμ'sicのミ」がベストだと自分は思った。

 

―来年、劇場版やライブもあってμ'sは続いていくわけですけど、今後『ラブライブ!』とどう向き合っていきたいですか?

内田 わたしは、何か歴史に残りそうなことをやりたいです(笑)

三森 できるよ。この『ラブライブ!』ならって思う

内田 ね、みんなの心に残ることができたらいいなって思います。人生の中で、そういうことってなかなかないじゃないですか。それができたら素敵だな。って思います

キャストインタビュー 「Cut (カット) 2014年 08月号」

 

「みんなの心に残ることができたらいいな」という内田さんの言葉を聞くと、「μ'sの音楽がみんなの心の中に残り続けて欲しい」という想いが「μ’sic Forever」に込められているように思えてくる。

 

以前の記事で、ラブライブ!の音楽は「ある場面に戻れる手がかり」であると畑先生の言葉を借りて書いた。ラブライブ!の音楽を聴くと物語の記憶が呼び起こされる。

 

ファイナルライブの当日も彼女たちの曲を聴くと、色々な思いが込み上げてくるだろう。しかし、たとえ最後を迎えようとも、彼女たちは音楽と共にあり続ける。彼女たちの音楽を聴けば、またいつでもその日の景色を思い出すことが出来る。それこそが「μ’sic Forever♪♪♪♪♪♪♪♪♪」に込められた本当の想いではないだろうか。

 

ラブライブ! μ's 3rd Anniversary LoveLive!―キャラクターとキャストのシンクロ

 

数々の歴史に残ることを成し遂げてきたμ'sだが、ある時から「できるよ。この『ラブライブ!』なら」(上記のインタビューの三森さんの言葉)という期待や信頼をラブライブ!に寄せていた。

 

自分が期待と信頼を寄せることが出来たのは「キャラクターとキャストのシンクロ」が象徴的だったことがある。そのシンクロが明確な形で表れたのが「ラブライブ! μ's 3rd Anniversary LoveLive!」

 

1期から2期にいたる間に、『ラブライブ!』は、スタッフの想像のはるか上をいく人気作品になっていて、穂乃果たちはもっとすごいことを成し遂げてくれるんじゃないかという空気感があったのですが、そんな空気をあの「雨やめー!」はみごとに形にしていたように思ったんですね。

シリーズ構成、脚本・花田十輝 「ラブライブ! TVアニメオフィシャルBOOK 」

 

花田氏のインタビューから分かるように、ラブライブ!は想像の上をいく反響があったようだ。その要因は、やはりTVアニメ1期の成功が大きいだろう。その成功が背景にあって、「1期から2期にいたる間に」μ'sが成し遂げた大きなことが「ラブライブ! μ's 3rd Anniversary LoveLive!」である。

 

3rdはTVアニメの1期を追体験できる構成で、目の前で劇中の場面が展開されていく姿は想像を超える感動があった。その感動の一番根っこにあったものが「キャラクターとキャストのシンクロ」だと思っている。

 

演じるキャラクターと同じダンスを踊るパフォーマンスが1stから積み重ねられ、それが3rdのパフォーマンスで実を結んだ。そして、劇中のμ'sとそれを演じるキャストの気持ちが繋がった。「役を演じる」意識が深層に沈んで「キャラクター本人として舞台に立つ」と言う表現が適切だろうか。そんな様子がパフォーマンスやMCの端々から確かに伝わってきた。それが受け手だけの思い込みではなかったことが新田さんのインタビューから気付かされる。

 

今思えば、2回目のワンマンライブまでは、私たちキャストが歌うμ'sライブだった気がします。でもTVアニメが放送された後の3回目以降は、私たちの中でμ'sが自分たちの一部になった感覚がありますね。TVアニメを通じて、演じながら歌うのではなく、自分の中の穂乃果が歌うということが自然にできるようになったからかもしれません。

高坂穂乃果役・新田恵海 「ラブライブ!μ's Final LoveLive!〜μ’sic Forever♪♪♪♪♪♪♪♪♪〜 パンフレット」

 

キャラクターとキャストの気持ちのシンクロ。

 

それがアンコールの「僕らは今のなかで」の大合唱を引き起こしたのであり、以降のμ'sの「感動する」パフォーマンスを形作るものが3rdで結実したのだ。

 

(3rdの記事を読み返している中で南條さんのブログの感想が刺さった。「みんな、そんな限られた時間の中で、自分のやるべき事をしっかりとこなしてる姿はまっすぐで、がむしゃらで、精一杯で、ステージの上みたいにキラキラした照明はないけど、とってもまぶしくって、一生懸命で」という言葉は、劇場版までのストーリーと重なる部分があり感慨深い。)

 

μ's 3rd Anniversary LoveLive! | 今日もいい天気だよ。

 

ラブライブ! μ's First LoveLive!~μ's Final LoveLive!―アニメと現実世界の相互補完

 

そんな3rdライブから遡ること約1年半前、μ'sの始まりを告げる「ラブライブ! μ's First LoveLive!」が横浜BLITZにて開催された。

 

3rd以降がキャラクターとキャストのシンクロに感動するライブならば、1stはキャラクターと同期したダンスを一生懸命踊る姿に感動するライブ。キャストが一生懸命踊る姿は、作中で穂乃果たちががむしゃらに踊る最初の姿に重なる。

 

初めて観たライブで、あそこまで全力でがんばっているメンバー9人の姿に素直に感動して。その日までにもずっと頭ではアニメの構想を考えていましたが、その時ついに1つのかたちが見えました。アニメが成功するイメージができたんです。

監督・京極尚彦 「ラブライブ! TVアニメオフィシャルBOOK 」

 

京極監督のインタビューを読むと、アニメからライブへ一方通行ではなく、アニメがライブからも影響を受けていたことは見過ごせない。確かに、TVアニメの1期を思い返すと、キャストのμ'sが紡いできた物語が端々に見受けられる。3話の逆境からのスタートはスクールアイドルプロジェクトの展開そのものだし、8話の「僕らのLIVE 君とのLIFE」は彼女たちの始まりを想起させる。

 

先ほど「キャラクターとキャストのシンクロ」について述べたが、「アニメと現実世界のシンクロ」も本作では多く見られるのだ。

 

PVの時よりも黄色っぽく光る部分を広く、強調しています、そこはμ'sのリアルライブの演出を参考に作ったので、逆輸入によって進化できた感じですね。

監督・京極尚彦 「ラブライブ! TVアニメオフィシャルBOOK 」

 

Snow halation」はその代表例で、元々はアニメーションPVからライブへと「オレンジの光」がファンによりオマージュされたことがあり、それが再びTVアニメの2期9話で「オレンジの光」として印象的に彩られた。

 

「アニメと現実世界のシンクロ」は、劇場版という最終局面まで見て取れる。

 

先日、ゲーセンに私が欲しいプライズがあって遊びに行ったんですけど、真横のマシンが『ラブライブ!』のグッズで、店内の曲もずっとμ'sで、店員さんも『ラブライブ!』のバッジをつけていて。街のいたるところにμ'sがいる現実に、今でも信じられないような新鮮な驚きを感じました。

絢瀬絵里役・南條愛乃 「ラブライブ!μ's Final LoveLive!〜μ’sic Forever♪♪♪♪♪♪♪♪♪〜 パンフレット」

 

南條さんのインタビューで語られている街の様子は、劇場版でμ'sが帰国した時の秋葉原の様子に重なる。アニメ内外での一致がラブライブ!には多いが、そのお陰で劇中の出来事でもリアルなものとして我々の目に映り、作品への感情移入の度合いは変わってくる。

 

そして私は、ラブライブ!のシンクロの最終形がμ'sのドーム公演だと思っている。

 

ドーム大会については劇場版で語られたが、詳しい様子については描かれなかった。しかし、我々はμ'sのライブに参加することでその一端を垣間見ることができる。アニメと現実世界のライブが遂に「一体化」したのである。

 

最初は紙1枚から生まれたμ's。そこから飛び出した現実世界のキャスト演じるμ's。彼女たちは相互補完的に成長し合い、最後にはひとつの存在になった。

 

スクールアイドルが生んだ功績―物語の一貫性

 

ラブライブ!の物語は終始伝えたいことが通底していたような気がする。それが出来たのは「スクールアイドル」という設定の功績が大きい。本章ではその舞台装置が生んだ功績について振り返りたい。

 

ラブライブ!は「アイドルもの」「部活もの」と呼ばれているが、どちらの要素が欠けても「筋の通った話」として描かれなかったと考えている。アイドルと学生という要素、その両方が合わさった「スクールアイドル」という唯一無二の舞台装置が必要となってくるのだ。

 

それを語るには、「スクールアイドル」が「アイドル」と大きく異なる点を最初に指摘しなければならない。それは「活動の有限性」である。その「活動の有限性」を「攻め」にも「守り」にも利用したことが、ラブライブ!のアニメの妙である。

 

「活動の有限性」が「守り」として機能する場面は、「活動を終わらせるタイミング」を決める時。「スクールアイドル」は、学校という枠の中での活動という性質から、卒業を迎えれば自ずと「スクールアイドル」ではなくなる。つまり「活動を終わらせるタイミング」が向こうからやってくる。アイドルも現実では人気や体力といった現実的な制約から活動を終了せざるを得ないことが往々にしてあるが、アニメではそれを描かないことも可能であり、アイドルが成長するだけで終わるケースも少なくない。しかし、ラブライブ!はあえてタブーのようにされている活動の終了、つまり事実上の解散を描いた。それを無理なく描けたのは、やはり「活動の有限性」を持ったスクールアイドルという舞台装置の功績が大きいだろう。

 

そしてもう一つ、「活動を終わらせる理由」が物語を終わらせるためには必要となってくるのだが、そこで「活動の有限性」の「攻め」の部分が効果を発揮している。ラブライブ!では、μ'sが活動を終わらせる時「限られた時間の中で精一杯輝こうとするスクールアイドルが好きだから」という理由を述べた。限りある時間のなかで仲間と過ごした青春の日々が愛おしい。であればこそ、今しか出来ないスクールアイドルの活動を終わらせる。「活動の有限性」の中でこそ輝けるという理由を彼女たち自身が出したからこそ、我々も彼女たちの選択を素直に受け止めることが出来たのだろう。

 

―監督が考えられる、「アイドル観」とはなんでしょうか?

日本のアイドルは、一生懸命頑張っている姿をお客さんに見てもらって、応援してもらって、ファンの方と一緒に成長していくのが特徴なんじゃないでしょうか。それはまさに『ラブライブ!』がここまで来られたのと同じだと思います。

監督・京極尚彦 「リスアニ!Vol.10.1」

 

ここまで長々と書いてきたが、「スクールアイドル」という唯一無二の舞台装置がラブライブ!という作品を根幹で支えていたということを伝えたかった。

 

京極監督のインタビューの通り、日本のアイドルはファンと一緒に成長していく姿が特徴である。ラブライブ!は、そこに学生や青春という要素を加えることで清潔さの純度を高めていたと思う。

 

最初に決めた重要な指針として、この作品はあくまでも"スクールアイドル"という存在を題材にした物語だから、"アイドルとはなにか?"をテーマにしないこと。同時に芸能界やアイドルファンを出さない。大人の意志や悪意によって、彼女たちの活動を阻害しない。と決めた記憶があります。それは1期第1話で穂乃果が走りだしたところから、映画のラストまで、作品すべてに徹底して貫かれていた指針だったように思います。

シリーズ構成、脚本・花田十輝 「ラブライブ! TVアニメオフィシャルBOOK 」

 

「大人の意志や悪意によって、彼女たちの活動を阻害しない」ことは、青春を描く上で重要なことだと思う。純粋に彼女たちが自らの努力や意思で成長する姿が描かれていればこそ純粋に彼女たちを応援できるのであり、彼女たちの選択がいっそう尊いものとして我々に映ったのだろう。

 

メンバーが9人いると、どうしても目立つ子とそうでない子が出てきてしまうと思うんですけど、9人が絶対必要なお話じゃないといけないと、脚本の花田(十輝)さんにはずっとお願いしています。

監督・京極尚彦 「ラブライブ! TVアニメオフィシャルBOOK 」

 

また、ラブライブ!で忘れてはならないのが、キャラクター全員が意思を持ってアイドル活動しているという点であり、そのためには「9人が絶対必要なお話」が描かれる必要がある。

 

特にそれが鮮明に描かれていたのが、1期の終盤から2期1話である。1期を通じて穂乃果を軸にμ'sは邁進するが、穂乃果の挫折と共に活動の停止を余儀なくされてしまう。そんな中で挫折した穂乃果を救ったのが他でもないμ'sのメンバー。穂乃果がグループの推進力になっていたことは事実だが、それを引き出したのはμ'sメンバーだったという構図が見て取れる。2期1話では、その流れをコンパクトに描き、穂乃果の大会出場宣言を他の8人が後押ししてる点も見事である。2期2話でも穂乃果を機能させずに他のメンバーが奮起する回を用意したり、2期9話の雪の中の宣誓を始めとして、メンバー全員がスクールアイドルを続ける意思を持っていることが分かる。

 

9人が全員必要となるお話がラブライブ!のアニメでは確かに描かれているからこそ、それぞれに強い魅力のあるキャラクターが生まれたのだ。

 

京極監督や僕、スタッフのみんなが膝をつき合わせて「この話に合った曲ってどんなんですかね?この話に合う歌詞って?」と話し合って……。こういうスタイルで挿入歌を作るのは、実はめずらしいことかもしれません。だから物語に合致した楽曲に仕上がっていました。

シリーズ構成、脚本・花田十輝 「電撃ラブライブ! 3学期」

 

ラブライブ!の音楽については別途この先で触れるが、ラブライブ!に登場する印象的な楽曲も京極監督や花田さんを初めとしたスタッフが最初に方向性を決めていたようである。「ある場面に戻れる手がかり」として重要な物語と歌詞のリンクだが、ストーリーを形作るスタッフ陣も楽曲の制作に大きく関わっていたことは見過ごせない。

 

「みんなで叶える物語」―言葉が持つ意味の拡がり

 

「アニメ」からラブライブ!を捉え直した上で次は「現実」から捉え直したいところだが、ここでは一旦その橋渡し的な役割としてスクールアイドルプロジェクトの「みんなで叶える物語」について触れておきたい。

 

秋葉原と神田と神保町という3つの街のはざまにある伝統校、音ノ木坂学院は統廃合の危機に瀕していた。学校の危機に、2年生の高坂穂乃果を中心とした9人の女子生徒が立ち上がる。私たちの大好きな学校を守るために、私たちができること……。それは、アイドルになること!アイドルになって学校を世に広く宣伝し、入学者を増やそう!ここから、彼女たちの「みんなで叶える物語」 スクールアイドルプロジェクトが始まった!

ラブライブ!Official Web Site」

 

ラブライブ!の開始当初から銘打っていた「みんなで叶える物語」。当初は、電撃G's magazine誌上で展開された「読者参加型」という意味合いが強かった。「μ's」というグループ名を初めとして、楽曲のセンターや、ユニットの構成などを公募で決める。正に、みんなで作り上げるプロジェクトの始まりである。

 

しかし、その「みんなで叶える物語」が持つ意味合いが徐々に拡がりを見せていった。まずは、劇中での意味の拡がりを振り返ってみたい。

 

個々が持っている思いを穂乃果がひとつに、μ'sとしてまとめあげてくれた、みたいな。で、『ラブライブ!』って作品全体がそんな感じなのかなって。みんなが小さな思いのかけらを持ってて、それがひとつに集結してるからこんなにも魅せられちゃうし、頑張るって気持ちになれる。

絢瀬絵里役・南條愛乃 「CUT 2014年8月号」

 

アニメでは、μ'sの発起人である穂乃果が9人「みんな」の思いをまとめ上げる様子が最初に描かれた。そして、彼女たちの働きかけが学校の「みんな」を巻き込み、2期9話に代表される展開を結実させた。そして、劇場版では遂にスクールアイドルの「みんな」と共に新しい夢を叶えた。穂乃果から9人へ。9人から学校へ。学校からスクールアイドルへ。劇中で「みんな」の持つ意味が拡がっていったことが分かる。

 

そして、現実世界でも「みんなで叶える物語」の意味が拡がっていった。

 

―『ラブライブ!』の明日に向けた野望があればお願いします。

徳井 私は早くフィギュアになってほしいんです。

久保 私はゲームになってほしい。あとは地方でイベントかな。

キャストインタビュー 「リスアニVol.10.1」

 

このインタビューは約3年半前のものであるが、徳井さんと久保さんが語る野望は予想を上回る形で叶っている。街中に溢れるフィギュア、スクフェスやスクパラといったゲーム、地方に足を運んだファンミーティングツアー。

 

これまで支えてくれた人たちがたくさんいたからこそ、μ'sはここまで大きくなったし、キャッチフレーズの「みんなで叶える物語」という言葉にも、どんどん真実味が出てきたな、とも感じています。

西木野真姫役・Pile 「ラブライブ!μ's Final LoveLive!〜μ’sic Forever♪♪♪♪♪♪♪♪♪〜 パンフレット」

 

キャラクターと気持ちさえもシンクロしたキャストの熱いパフォーマンスに呼応して、それを応援するファンが増えていった。それに伴い、ラブライブ!のグッズやゲームの展開、ライブ会場の開催場所の拡がりやキャパシティの拡大がなされた。アニメだけではなく現実世界でも「みんなで叶える物語」の意味合いが拡がっていったからこそ、このコンセプトに真実味や説得力が生まれたのだ。

 

μ'sキャストの軌跡ーそれぞれが好きなことで頑張れるなら

 

アニメを中心としたスクールアイドルプロジェクトの軌跡は振り返ったので、ここではμ'sを演じてきたキャストが辿ってきたもう一つの軌跡について振り返る。

 

近年のアニメではキャストが前に出て歌唱することは当たり前になってきているが、ラブライブ!では「声優」という存在が作品の魅力を形作る上で非常に大事な要素になっている。そのキャストがどのような経緯を辿ってラブライブ!に携わり、どのような思いで役を演じてきたのかについて想いを馳せてみよう。

 

高坂穂乃果役・新田恵海

 

小さい頃から歌を歌って、みんなが喜んでくれるのがうれしかった。これが私の原点でした。

高坂穂乃果役・新田恵海 「リスアニVol.14.1」

 

新田さんといえば、歌うことが好きで、歌でみんなを笑顔にしたいという思いを持っている方という印象が強い。

 

そんな彼女が音楽を好きになった原点は、音楽好きの両親の影響が大きかったようである。彼女が音大の声楽科を卒業する時、それまで自分が聴いていた「人に元気を与えられる音楽」をやりたいと思い、飛び込んだ事務所で佐藤ひろ美社長から演技の道を勧められ、翌年にラブライブ!のオーディションを受けたそうだ。

 

そんな彼女にとって穂乃果は自分にとって「元気をくれる存在」であるという。

 

穂乃果のように根っからのポジティブではなくて、私って根はネガティブ思考なんです。本当はすごく怖がりで逃げ出したい時だってあるんですが、今は表現すること、歌うこと、皆さんの笑顔にであることがすごくうれしくて、それがポジティブに繋がってるんです。それは穂乃果の影響かもしれません。

高坂穂乃果役・新田恵海 「リスアニVol.14.1」

 

明るく見える新田さんも根はネガティブ思考であるという。「人に元気を与えられる音楽」を夢に見た新田さんが、穂乃果のおかげでポジティブに表現することを躊躇わなくなったことは、彼女たちが二人三脚で歩んで来たことの証明になるだろう。

 

南ことり役・内田彩

 

元々アニメの世界が大好きだったんです。『セーラームーン』みたいな変身美少女ものとか、魔法少女ものとか。

南ことり役・内田彩 「リスアニVol.14.1」

 

内田さんといえば、キャラクターを演じることに強いこだわりを持ち、声優業を本当に楽しまれている印象が強い。

 

そんな彼女が声優という職業に憧れを持った原点は、幼い頃に触れたアニメの影響が大きいという。中学時代には声優という職業の存在を知り、夢に向かって邁進し、声優になるという夢を叶えてからは「キディ・ガーランド」でランティスの音楽制作を担当された斉藤滋さんとの縁もあって、ラブライブ!のオーディションを受けたそうだ。

 

内田さんは、ことりとの共通点として「好きなことを大事にしている」という点を挙げている。

 

ことりって、あまり自分が前に出るタイプではないと思うんです。自信はないけどこの仕事が楽しいからやりたくて、一生懸命やろうってところは、ことりと一緒だなと思って。そこを膨らませていって、今のほんわかしたことりができたんじゃないかと思います。

南ことり役・内田彩 「リスアニVol.14.1」

 

内田さん自身、舞台上では「内田彩」としてではなく、「南ことり」として立っている意識が強いという。夢に見た声優になって、好きなことに全力でこだわる内田さんが彼女と似た側面を持ったことりを演じたことには何か不思議な縁がある気がしてならない。

 

園田海未役・三森すずこ

 

子供のころは、外ではおとなしくて、家ではやんちゃな内弁慶な子でした。家ではショーごっこみたいな遊びをふすまを使ってやってましたね。目立つことが大好きで、将来はダンサーになりたいと思ってました。幼稚園の卒園アルバムにも"ディズニーのダンサーになりたい"って書いたんです

園田海未役・三森すずこ 「FLASHスペシャル2015年11月25日増刊号」

 

三森さんといえば、明朗快活で、舞台出身というのもありステージ上では所作の端々にこだわりを持っている印象が強い。

 

そんな彼女が声優の前身であるミュージカル俳優に憧れたきっかけは、目立つことが好きという性格と子供の頃に習っていたクラシックバレエの影響が大きいという。中学ではミュージカル部に所属していたこともありミュージカル俳優を志したり、宝塚を志したりして紆余曲折を経た上で今のブシロード木谷高明社長と出会い、間も無くしてラブライブ!のオーディションを受けたという。

 

そんな三森さんにとって海未は「親しい友だち」みたいな存在だという。

 

ラブライブ!』は私の声優としての活動と同時に始まった作品。これまで海未ちゃんと一緒に歩いてきたので、ファンの人から海未ちゃんの好きなところを教えてもらったりすると本当に嬉しいんです。我が子……じゃないな、親しい友だちみたいな感覚で。

園田海未役・三森すずこ 「リスアニVol.14.1」

 

三森さんの声優人生のスタートから一緒に歩んできた海未。そんな彼女を舞台上で輝かせるためにそれまで培ってきた経験を全て注ぎ込んでいるからこそ、舞台上の彼女は一層輝いているのだと思う。

 

小泉花陽役・久保ユリカ

 

声優という職業に中学生のころから淡い憧れを抱いていたんですけど、その想いを胸に秘めながらずっと他の仕事をしていて、気づいた時には「あきらめるしかない」という心境になっていて。ところが、一度あきらめたはずの声優の道を『ラブライブ!』が開いてくれたんです。この世界に私が声を担当する役がいる―。…もし、花陽がいなかったら、私は仕事への情熱を取り戻せなかったかも。

小泉花陽役・久保ユリカ 「ラブライブ!μ's Final LoveLive!〜μ’sic Forever♪♪♪♪♪♪♪♪♪〜 パンフレット」

 

久保さんといえば、μ'sのムードメーカー的な存在で明るい印象があり、声優になる前は多方面で活動していた。

 

声優という職業に対しては中学生の頃から憧れがあったようで、当時所属していた事務所でも「アニメの仕事がしたい」と訴えていたそうだが、その夢は叶わずに現実の厳しさに直面したという。しかし、ラブライブ!に出会い、花陽を演じるようになってからは、再び憧れていた仕事に就いて情熱を取り戻せたようだ。

 

久保さんにとって花陽は「自分と限りなくひとつに近い存在」になったという。

 

「花陽なら、こういうシチュエーションではこう考えて、こんな感じで話すと思うんです」って説明できるくらい。自分は花陽だと思ってるし、花陽は私だっていう……
限りなく一つに近い存在になっている感覚があるんです。

小泉花陽役・久保ユリカ 「リスアニVol.14.1」

 

声優に憧れて一度その夢を諦めかけた久保さんをこの世界につなぎ留めたのがラブライブ!という作品であり、今では自分の半身となった花陽という少女が手を差し伸べてくれたのだ。

 

星空凛役・飯田里穂

 

ステージで歌ったり踊ったりするのは、ずっとやりたかったことなんです。『天てれ』でもNHKホールのステージに立たせてもらったんですが、舞台でキラキラしたスポットライトを浴びて、歌ったり踊ったりした感動は忘れられません。だから、またステージに立てるっていうのは、本当にうれしいですね。

星空凛役・飯田里穂 「リスアニVol.14.1」

 

飯田さんといえば、メンバーで一番年下でありながらも、内面はしっかりしていて明るい印象が強い。

 

そんな彼女が現在ステージに立っているのは、憧れていたテレビの世界に行ってみたいという子供心がきっかけだそうだ。憧れの「天てれ」を卒業した後は、普通の学生生活を送ってみたいと思い高校、大学と進学、ずっと続けていた芸能活動だけは続けたいと思い、今のラブライブ!のオーディションを受けたそうだ。

 

そんな飯田さんにとって凛は「妹」みたいな存在であるという。

 

凛ちゃんは長年つきあっている家族っていうか、私にとっては妹みたいで。もし凛ちゃんみたいな妹がいたら本当にかわいいでしょうね。だから、見ている人にもそう感じてもらいたいんです。私が感じる凛ちゃんのかわいさみたいなものを、演技で表現できたらいいなと思ってます。

星空凛役・飯田里穂 「リスアニVol.14.1」

 

芸能の活動に憧れてアイドルも好きだった飯田さんが凛を輝かせることが出来たのは、彼女にとって役を超えた家族のような存在であり、一番の理解者であろうとしたからなのだろう。

 

西木野真姫役・Pile

 

よく『どんなところが真姫との共通点ですか?』って訊かれるんですけど、『いや、共通点はないかもしれないです』って答えていたことが今までは多くて。でも、ほんとにやりたいことを諦めかけていたところが一緒だなあって気づいて

西木野真姫役・Pile 「Cut 2015年 08 月号」

 

Pileさんといえば、見た目はクールだがその実内面は明るくて、何よりも歌を歌うことが好きだという印象がある。

 

そんな彼女は、歌が歌いたくて14歳で芸能界に入るも音楽の仕事にはなかなか携われず、ようやく手にした音楽の仕事も自分がイメージしていたものとは違ったそうだ。そして、これに落ちたら仕事を辞める覚悟で挑んだラブライブ!のオーディションに見事合格。声優という仕事に当初戸惑ったようだが、一人では立てなかった大きなステージにも立って歌うことが出来るようになった。

 

これまでの生い立ちがメンバーの中で役と最も酷似しているPileさんにとって、真姫は「自分の人生を変えてくれたパートナー」だという。

 

真姫ちゃんは、ある意味私の人生を変えてくれたし、雑紙やテレビ、ライブ、CDなど、活動の幅を広げていろんなところに連れてってくれたパートナーだなって思いますね。

西木野真姫役・Pile 「リスアニVol.14.1」

 

音楽の道を志すも思い通りにいかず諦めけていた時に出会ったラブライブ!という作品。そこで出会った真姫が、彼女自身に似ているだけではなく、彼女自身が歌で再起するきっかけにもなったことは感慨深い。

 

Pileさん自身が自分のこれまで歩んで来た人生をブログで語っている。彼女の思いが痛いほど伝わってくる素敵な文章なので是非お読みいただきたい。)

 

ameblo.jp

 

矢澤にこ役・徳井青空

 

私、小さい頃からアニメが好きで、よくアニメのキャラクターのモノマネをやったり、キャラソンを歌ってたりしてたんです。

矢澤にこ役・徳井青空 「リスアニVol.14.1」

 

徳井さんといえば、周りを楽しませるためにいつも面白いことを言ってくれるが、役に入る時はスイッチの切り替えがとても早い印象がある。

 

そんな彼女は、小さい頃からアニメが好きでアニメキャラのモノマネやアニソンを歌っていたという。ある時「自分で演じてみたい」という気持ちから、高校では演劇部に入り、いつしか声優になりたいと思うようになっていたという。

 

徳井さんは、自分自身が演じるにこに対して「一番のファン」であると自負しているそうだ。

 

にこちゃんに出会って本当によかった。いろんなことを教えてもらったし、今では私もたくさんの人に愛されています。にこちゃんのおかげ。本当にありがとう。私にとってすごく大切で特別なヒト。これからもずっとずっとあなたの一番のファンでいるからね

矢澤にこ役・徳井青空 「Cut 2015年 08 月号」

 

いつも周りを楽しませてくれる徳井さん。周りの人みんなを笑顔にするという夢を持つにこを演じたことで彼女自身もファンから愛されるようになったことは、役に対する愛情が深かったことと無関係ではないように思える。

 

東條希役・楠田亜衣奈

 

中学校の時からアニメが大好きで、文化祭で声優の方の講演を聞く機会があったのですが、その時は声優なんて私には無理だなと思っていたんです。それでもアニメが好きという気持ちと声優への興味が消えず、ダメでも頑張ってみようかなと思い、声優になるための勉強をし始めました。

東條希役・楠田亜衣奈 「JTB Communications Recruit 2015」ホームページ

 

楠田さんといえば、性格は天然で愛らしいが、キャラクターへの思いは強く舞台上でもしばし涙を流している印象がある。

 

そんな彼女は一度声優という道の難しさを知って諦めかけたが、自分の好きな作品で活躍している声優に憧れ、一念発起して声優の道を再び志したそうだ。その始まりに出会ったのがラブライブ!だという。

 

楠田さんは希と出会ってなかった自分が考えられないほど、希が「あたりまえな存在」になっていると語っている。

 

ずっと一緒にいたから気がつかなかったけど、いつのまにか希が隣にいる人生が、あたりまえになっていて、今ではあなたと出会ってなかった私は考えられません。

東條希役・楠田亜衣奈 「Cut 2015年 08 月号」

 

ラブライブ!が声優デビュー作である楠田さん。彼女が声優になって初めて演じたのが希であるが、希と出会ってなかった自分が想像できないほど今では彼女の中に占める希の割合が大きくなっているという。

 

絢瀬絵里役・南條愛乃

 

声優って、いろんな作品のキャラクターに声で命を吹きこめる、すごい職業なんだと衝撃を受けました。それが声優という職業を初めて意識した瞬間です。

絢瀬絵里役・南條愛乃 「Cut 2015年 08 月号」

 

南條さんといえば、いつも落ち着いて周りを見くれている印象があるが、作品やキャラクターについて語ると、役に対して強い思いを持っていることが伝わってくる。

 

そんな彼女は、引っ込み思案な自分を変えたいと思い、自分の好きなアニメーションに関われる仕事がしたいと思ったそうだ。声優を志したきっかけは、彼女が好きな「カードキャプターさくら」に出演していたくまいもとこさん。くまいさんの声に惹かれて声優という職業について調べている内に、声優の素晴らしさを知り、今の仕事に就こうと決めたそうだ。

 

南條さんは絵里について「自分との境界が曖昧になっている」という。

 

「クールで冷静だと思われてるけど、いつも泣き出しそうだし、悩んでいるし、そういうところを隠している」みたいな台詞があって。私たち、外見は真逆なんですけど、内面的には似ているなと思えるところがたくさんあるので、すごく共感しやすいというか……。今となっては、絵里と私の境界線が曖昧な部分もあるなと感じるくらい、大きな存在ですね。

絢瀬絵里役・南條愛乃 「リスアニVol.14.1」

 

内面が絵里と沢山似ている部分があるという南條さん。今では演じている役との境界線が曖昧になるほどの境地にあり、それゆえに絵里が等身大の女性として魅力的なキャラクターになったのだろう。

 

(ファイナルライブへの南條さんの気持ちが書かれている。彼女が抱えてきた想いがありのままに書かれているので、参加する全員に今一度お読みいただきたい。)

 

μ’sic Forever♪♪♪♪♪♪♪♪♪ | 今日もいい天気だよ。

 

ここまで、μ'sを演じるキャストがラブライブ!に携わった経緯とキャラクターに対する想いを見てきた。キャストにはそれぞれの夢があり、夢を目指したきっかけがあり、別々の軌跡を辿りながらも、ラブライブ!という作品で巡り会うことが出来た。それは本編とは別のもう一つの物語であると言ってもいい。

 

ラブライブ!は長く続く作品だからこそ、キャストの愛情が多く注ぎ込まれて魅力的な作品になったという側面もあるが、九人九色の道を辿ってきたメンバーが集まったからこそ、他の作品にはない唯一無二の魅力を放っているのだと思っている。そのことを強く確信したのは、「μ's New Year LoveLive! 2013」の内田さんのMCを聞いた時からだ。

 

シカちゃんみたいにグラビアをやっていた子とか、Pileちゃんみたいに歌手をやってた子とか、くっすんみたいにこれがデビュー作の子とか本当に色々な子がいて、最初はどうなるかなっていう不安もあったけど、ライブとかアフレコとか歌とか色々なことをやっていると、それぞれに得意な分野、リスペクトできる部分がすごく沢山あって

南ことり役・内田彩 「ラブライブ! μ's New Year LoveLive! 2013」

 

内田さんの言葉からも分かる通り、彼女たちはそれぞれの異なる得意分野でお互いを支え合い、尊敬できる部分を見て切磋琢磨しながら作品を作り上げてきた。異なる生い立ちのメンバーが集まり「それぞれが好きなことで頑張れた」からこそ、ラブライブ!は世界に二つとない輝きを放つ作品になったのだ。

 

最後にラブライブ!のキャストたちがラストライブへの想いを語っている記事を引用する。

 

μ'sのラストライブはゴールじゃなく、そこを通過点にそのままの勢いで駆け上がりたいと思います。

飯田里穂 「別冊CD&DLでーた My Girl vol.8 "VOICE ACTRESS EDITION"」

 

ラブライブ!」の活動がひと区切りする寂しさはもちろんあるんですけど、それも悲観じゃなく、新しいフィールドに向かうんだろうなっていう楽しみもあります。

南條愛乃 「別冊CD&DLでーた My Girl vol.8 "VOICE ACTRESS EDITION"」

 

飯田さんも南條さんもラブライブ!のファイナルライブがゴールなのではなく、そこをきっかけにまた自分の道を前向きに歩むための区切りと言っている。μ'sの物語はファイナルライブで終了するが、キャストたちの物語はファイナルライブが終わろうとも、ここからまた始まることが分かった。

 

μ’sic―μ'sの音楽の軌跡

 

ここまでアニメやキャストに関して思っていることを綴ってきた。最後に、ラブライブ!には欠かせない「音楽」について振り返る。

 

やっぱり音楽って凄いんですよ。一曲一曲聴くだけで、そこの場面に戻れるわけじゃないですか。『ラブライブ!』ではこんなにたくさんの曲を作ってきたし、一曲一曲が戻れる手がかりとして残ってるから、いつでもまた会えるよっていう気持ちもあって。

作詞家・畑亜貴インタビュー 「Cut 2015年 08 月号」

 

前回の記事で述べた通り、ラブライブ!の楽曲は「その場面に戻れる手がかり」として物語とリンクした歌詞が特徴である。

 

その中でも特に印象的なものが「僕ら」というフレーズである。「僕らのLIVE 君とのLIFE」、「僕らは今のなかで」、「僕たちはひとつの光」など、重要な楽曲では必ず「僕ら」という言葉が用いられる。ラブライブ!の楽曲を作中で歌っているのは10代の女子たちだが、それでも「僕ら」というフレーズが使われている。その「僕ら」という言葉が聴く者に与える印象について内田さんが的確なコメントを残してくれた。

 

「僕ら」ってなると本当に限定しないというかみんなっていう感じがするんですよね。何かこう希望や未来を持っているこれからがあるものの象徴みたいに思えて

南ことり役・内田彩 「NHK μ’sスペシャルライブ」

 

「僕ら」という言葉を聞くと、希望や未来を持った者すべての気持ちをμ'sが代弁して歌っているかのような印象を覚える。この特定の誰かに限定しないことが、ラブライブ!の「みんなで叶える物語」というコンセプトに合致して、聴く人が共感できる楽曲になった。

 

「輝き」「光」という青春の瞬きの様子を印象的に表現したフレーズもラブライブ!では多様されている。しかし、ただそれらを歌詞に織り交ぜるのではなく、同じ言葉を用いて曲と曲をまたいでストーリーを展開させる仕掛けを取り入れていることは特筆すべきだ。「僕らは今のなかで」の「輝きを待ってた」から始まり、「KiRa-KiRA Sensation!」では「おおきな輝きをつかまえる」「光の中で歌うんだ Sensation!」と、劇中のμ'sの成長に従って歌詞も変化する。最後には「僕たちはひとつの光」で「光を追いかけてきたんだよ」と歌い、物語は完結する。

 

(「僕らは今のなかで」について)
輝きを待ってたから、"自らが輝きを放つ存在になる"というゴールを設定して、いつかそういう歌詞を書くつもりでいました。

作詞家・畑亜貴 「ラブライブ! TVアニメオフィシャルBOOK 」

 

曲と曲をまたいだストーリー展開は「僕らは今のなかで」の最初の段階で着地点を決めていたという畑さんの才能には感服である。

 

ラブライブ!決勝を飾った「KiRa-KiRA Sensation!」で印象的な歌詞がもう一つ。「奇跡それは今さここなんだ」という歌詞。TVアニメ2期OPの「それは僕たちの奇跡」の「それ」が指し示していたものが、1期OPの「僕らは今のなかで」の「今」に当たると思いカタルシスを覚えた。

 

もちろん、一曲の中で物語が展開する例も多く、ファイナルシングルに近い楽曲ほどそれは強く感じられる。「僕たちはひとつの光」が代表的で、「ほのかな予感から始まり」や「時をまきもどしてみるかい?No no no いまが最高!」は、アニメの物語を追ってきた人なら即座に展開を思い出すことが出来るだろう。この曲に関してはμ'sメンバーの名前を入れながらも、物語に登場した本質的な要素を全て取り入れているため、正に「集大成」と呼ぶに相応しい楽曲になっている。

 

2期第9話の「Snow halation」で、μ'sは全国大会への切符を手にしますが、言葉で結果が語られてなくても勝ったことって伝わるんですね。それは歌が必殺技だからですよ。そこに向かって段取ってあげれば、あとは歌の力で解決する。歌にすべて乗せろというのが、暗黙の了解としてありました。

シリーズ構成、脚本・花田十輝 「ラブライブ! TVアニメオフィシャルBOOK 」

 

花田氏の言う通り、ラブライブ!では言葉で結果が語られなくても、歌が物語の展開や結末を物語っていることが往々にしてある。それは、ラブライブ!の曲が物語と密接に関わっており、楽曲自体に説得力があるからこそ、曲で結果を物語ることが出来るのだ。

 

そして、ラブライブ!の音楽でもう一つ重要なものが「劇伴」である。ラブライブ!の劇伴はバラエティー番組でも多様されているように多くの人の耳に残るキャッチーなものが多い。

 

打ち合わせのときに言われたのが、女の子らしいかわいい音楽、ということではなく、中学や高校で流れているような吹奏楽の音や、バンドサウンドといった10代の生活の中にある音を中心に、オーケストラも使った映画のような音楽にしたいということでした。どんな場面で流れるか、というだけではなく、その曲がどう展開するか、どういう印象を持たせたいのか、ということまでメニューに具体的に書いてありました。

作曲家・藤澤慶昌 「リスアニVol.10.1」

 

劇伴を作曲した藤澤さんのインタビューを通して、劇伴を制作する前に「どんな場面で流れるか」「どう展開するか」「どういう印象を持たせたいのか」という具体的な指示があったことが分かる。物語に相応しい楽曲、楽曲の中でそれを想起させる展開があらかじめ具体的にスタッフ陣と共有できていたこと。それが、ラブライブ!の劇伴が素晴らしいことの背景にある。

 

大袈裟というと語弊があるかもしれませんが、・・10代の頃って自分の身の回りに起こることに対して無性にワクワクしていて、それが世界のすべてだと感じて、でももっと広げていきたいという好奇心の塊でもあって。そういう10代にしかない感情の爆発を表現するんだったら、地味にせずに、とことん大袈裟にしようと思いました。

作曲家・藤澤慶昌 「リスアニVol.14.1」

 

ラブライブ!の劇伴が素晴らしいもう一つの理由として、藤澤さんの言う「大袈裟」が重要なキーワードになっている。10代の子は大人が見ているより世界が狭く閉じられているため、目の前に起こることが世界の全てであり、その些細な出来事によって大きく感情が変化する。その感情を曲で表現すると「大袈裟」になる。ラブライブ!の劇伴がどれもキャッチーで多方面で使われていたことにはそんな理由もあったのだろう。

 

ラブライブ!を語る上で「音楽」はやはり無視できない要素である。物語と密接に寄り添った音楽を聴けばいつでもその場面に立ち返ることができるように、μ'sが活動を終えようとも彼女たちは曲と共に永遠にそこに存在しているのだ。

 

みんなで叶えた物語の軌跡―さいごに

 

ここまで、ラブライブ!が描いてきた「みんなで叶える物語」の軌跡を追ってきた。

 

最後に「ラブライブ!」という作品名に込められた想いについて考えた上で、締めの言葉とさせていただく。

 

ラブライブ!」は元々はプロジェクトの名前だが、劇中ではスクールアイドルが目指す大会のことを指し示していた。最初はなぜスクールアイドルの大会が作品名になっているのだろうかと疑問に思った。しかし、劇中でμ'sが永遠(9人で活動を続けること)を放棄して刹那を選択する姿を見てその疑問は一気に解決した。

 

ラブライブ!は、限られた今のなかで生きる(Live)ことを愛する(Love)物語

 

ラブライブ!は、過去でも未来でもなく「今」という限りある青春の中の物語であり、劇中でも刹那の中で好きなことを全力で楽しむことが肯定され続けてきた。

 

スクールアイドルは限りある時間の中で精一杯輝こうとしたし、μ'sも9人でいられる今が大切であればこそμ'sを終わらせる覚悟を決めた。

 

そして、物語の最後に「いまが最高」とμ'sは高らかに歌った。

 

その言葉は、限られた今を全力で生きるという思いが込められている「ラブライブ!」という物語と等価ではないだろうか。

 

2010年に産声を上げたスクールアイドルプロジェクトは6年という長い歳月をかけて様々な軌跡を描いてきた。当ブログでも本作品が描いてきた軌跡について触れて来たが、ブログを始めたのも「ラブライブ!The School Idol Movie」を見て感じたことを言葉にして伝えたいと思ったのがきっかけだった。

 

その劇場版の感想でも書いたが、ラブライブ!は多くの人から愛される作品になったのだから、今後もそれを続けることは可能であっただろう。劇場版でμ'sの最後を描くことなく彼女たちの活動の続きを描くことも出来ただろう。だが、それをしなかった。ラブライブ!は「もしも」の可能性を捨てて終わりを描いたのだ。

 

終わらせることで輝きが強くなること。

 

終わらせることで、ラブライブ!が永遠に輝き続ける青春の物語になること。

 

ラブライブ!は自らの命を賭してその価値を体現したのだ。

 

そんな気概を持った作品に出逢えたことは一生の財産であると胸を張って誓える。作品に心血を注いで制作したスタッフ一同、そして人生を賭けてμ'sの声に命を吹き込み、舞台上から多くの輝きを届けてくれたキャスト一同には、いくら感謝をしてもし切れない。この感謝の思いを伝えた上で、これを最後の言葉とさせて頂く。